滅多にないが自分がオフラインになることがある。
飛行機に乗るときである。
着座してシートベルトを付けると、CAのアナウンスが聞こえてくる。
スマートフォンなどの電波を発する機器は電源をお切りになるか機内モードなどの電波を発しない状態に設定してください。
万が一航空機の運航に支障があってはならないので従順に手元のスマートフォンを機内モードに設定する。
これは義務である。
飛行機が身体に加速度を与え離陸すると、地上がゆっくりと離れてゆく。
次第に都市はミニチュアになる。
上空1万メートルを時速900キロメートルで移動する。
空は濃紺に近づいてゆき宇宙を感じる。
最近知ったのだが、米国空軍の定義では高度80キロメートル以上からが宇宙らしい。
ここはその8分の1。まったくもって宇宙の足元にも及んでいなかったようだ。
宇宙は遠い。
だが、感じるのは勝手だ。
この、宇宙に(気分としては)近づいているオフラインの時間と空間が好きだ。
仕方なく電波が届かない状態。
ゆっくりと動いてゆく眼下の都市や集落などの人々の営みの現れに目線を留めていると、見えない波紋が無数に発信されているような幻視に陥る。電子機器の電波である。地上すれすれの薄い層を高速で伝播し合っている。
ここには届かない。
届いていないのは電波だけだろうか。
届かないのは人々の思念かもしれない。
愛や憎しみや嫉妬や野心や切望や感動。
それらはまるで地球の薄皮のように地上に張り付いているように感じる。
ここには届かない。
